直腸がんで肛門を残すべきか——母と妹が教えてくれた「排便障害」と人工肛門の現実

この記事を書いた人:くるみん

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直腸がん・大腸がん手術で「肛門を残すか、人工肛門(ストーマ)にするか」——多くの患者さんが直面するこの選択。排便障害(LARS)に苦しんだ母と、手術直後の妹の実体験から見えてきたことを、訪問看護師26年・がんサバイバーの私がお伝えします。

「できれば肛門は残したい」——それが”普通の幸せ”だと、私も以前は思っていました。しかし「残すこと=幸せ」ではない現実があります。

⚠️ 免責事項
本記事は、看護師(元訪問看護ステーション管理者)でありがんサバイバーである筆者の見解と家族の体験に基づくものです。医療行為や治療方針の判断に代わるものではありません。治療の選択については必ず担当医にご相談ください。

直腸がん治療は「命を救う」から「生活を守る」へ変わってきた

先日、地方紙で「外見か生活か 排便障害のリスク考慮」という記事を読みました。記事では、近年の直腸がん治療について書かれていました。

昔は、肛門近くにできた直腸がんでは、肛門ごと切除し永久人工肛門になるケースが多かったそうです。

しかし現在は、

  • 手術技術の進歩
  • 自動吻合器の発達
  • 神経温存技術
  • 腹腔鏡やロボット支援手術

などによって、肛門を温存できる患者さんが増えてきました。これは医療として大きな進歩です。

ですが、記事の中で印象的だったのは、

「肛門を残しても、元通りの排便になるとは限らない」

という部分でした。

直腸は、ただの”便の通り道”ではない

直腸は単なる通り道でない

私たちは普段、排便を当たり前にしています。でも実は、直腸には非常に重要な役割があります。

直腸は”便をためる臓器”

直腸は、

  • 便をためる
  • 排便タイミングを調整する
  • ガスと便を区別する

という働きをしています。例えるなら、「高性能な便の貯水タンク」のような存在です。

そのため、直腸を切除すると、

  • 頻便
  • 急な便意
  • 便失禁
  • 残便感
  • 少量便が何度も出る

といった排便障害が起きることがあります。

低位前方切除症候群(LARS)とは

これは「低位前方切除症候群(LARS:Low Anterior Resection Syndrome)」とも呼ばれています。直腸を切除した後に起こる排便障害の総称で、術後数年経っても続くことがあるとされています。

命は助かっても、“トイレ中心の人生”になってしまう人もいるのです。

構造でなく生活の質で比較する

母は、肛門温存術のあと排便障害に苦しんだ

トイレに縛られる日常の現実

私の母は以前、直腸がんの手術を受けました。その時選択したのは、「肛門温存術」でした。

当時の家族は、「肛門は残せるなら残したほうがいい」そう考えていました。でも、手術後から母の生活は大きく変わりました。

数分おきにトイレへ行く生活

便意を我慢できない。少し出たと思ったら、またすぐ便意が来る。そんな状態が続きました。

母は、いつでもトイレへ行けるように、自宅中心の生活になっていきました。以前は畑仕事が大好きで、毎日のように外へ出ていた人です。しかし次第に、畑にも出なくなりました。

旅行へ誘っても、「便のことが気になるから」と言って断ることが増えました。新聞記事の中にも、「一日中、トイレのことを考えてしまう」という患者さんの声がありました。母も、まさにそうだったと思います。

食べることまで怖くなっていった

排便障害は、食生活にも影響します。母は、油物・外食・刺激物などを避けるようになりました。「食べると便が止まらなくなる」そう恐れていたからです。その結果、体はみるみる痩せていきました。

排便障害は、命に直接関わるわけではありません。でも、外出・食事・趣味・人付き合い——そんな”普通の生活”を大きく奪ってしまうことがあります。

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その後、母は人工肛門になった

その後、母には再び大腸がんが見つかりました。結果的に、大腸の左側から肛門までを切除し、左下腹部に人工肛門(ストーマ)を造設することになりました。

最初、母はかなり戸惑っていました。やはり、「お腹に便の出口ができる」という事実は簡単に受け入れられるものではありません。

ですが、生活は大きく変わりました。

便を”予測できる安心感”

便が突然肛門から出ることがなくなり、自分である程度コントロールできるようになったのです。

もちろん、パウチ交換・皮膚ケア・漏れへの注意など大変さはあります。それでも母は、「前より生活しやすくなった」そう話すようになりました。

以前のように、急いでトイレへ駆け込む・常に便意を気にする、という生活ではなくなったからです。食事も、以前ほど神経質にならなくなりました。

妹が悩み続けた「肛門を残すかどうか」

そして今回、妹にも大きな選択が迫られました。妹は約8年前に子宮体がんを発症し、手術後も抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)による治療を続けてきました。しかし今回、直腸転移が見つかり、手術を受けることになったのです。実は昨日、手術を受けました。

母の姿を見てきたからこその葛藤

妹は看護師です。そして何より、排便障害に苦しむ母を何年も見てきました。だからこそ、「肛門を残すか」「ストーマにするか」本当に悩んでいました。

これは単なる”見た目”の問題ではありません。これからどう生きるのか、どんな生活を送りたいのか——その選択でもあるからです。

どう残すかでなくどう生きたいか

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「ストーマ=かわいそう」ではない時代

以前は、「人工肛門=人生の終わり」のように感じる人も多かったと思います。ですが今は、環境も大きく変わってきています。

社会の環境も進歩している

現在では、

  • オストメイト対応トイレ
  • 高性能な装具
  • 消臭技術
  • 訪問看護やストーマ外来

など、支援体制もかなり整ってきました。ショッピングモールやサービスエリアでも、オストメイト設備を見る機会が増えました。つまり、「ストーマだから外出できない時代」ではなくなってきているのです。

社会はすでに自由を後押ししている

「残すこと」だけが正解ではない

体の自然さか生活の自由度か

もちろん、肛門温存が合う人もいます。人工肛門のほうが生活しやすい人もいます。正解は一つではありません。

ですが私は、母の人生を見てきたからこそ思います。

「ストーマは、不幸な選択ではない」

むしろ、安心して外出できる・食事を楽しめる・トイレへの恐怖から解放される——そんな”生活の自由”を取り戻せる場合もあるのです。

新聞記事の中でも、「外見だけでなく、その人らしい生活を考えることが大切」と書かれていました。私も、本当にそう思います。

あなたなら、何を大切にしますか?

誰もが普通の幸せを願う

肛門を残すこと。自然排便を守ること。もちろん、それは大切です。

でも一方で、外出できること・趣味を楽しめること・安心して眠れること——それも、人生にとって大切なことではないでしょうか。

もし今、手術を前に悩んでいる方がいたら。「残せるかどうか」だけではなく、“これからどんな生活を送りたいか”——ぜひ、その視点でも考えてみてほしいと思います。

まとめ

📝 この記事のポイント

  • 肛門温存術でも、排便障害(LARS)が起きることがある
  • 排便障害は命に関わらないが、生活の質を大きく変える
  • ストーマは「自由を取り戻す選択」になり得る
  • 正解は一つではなく、「どう生きたいか」で選ぶもの
  • 社会のオストメイト対応も進み、外出しやすい時代になっている

大切なのは、外見や”普通”にとらわれず、自分らしい生活を見つめて選択することだと思います。この記事があなたの療養生活の小さな支えになれば幸いです。

経済的な備えも、生活を守る選択のひとつ

排便障害もストーマも、その後の生活には装具代・通院・働き方の調整など、見えにくい経済的負担が伴います。診断を受けてから慌てないために、がん保険の見直しや無料相談を活用しておくと安心です。

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──くるみん(訪問看護師26年・がんサバイバー)

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