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おもてなしの手術室——がん患者として安心を感じた瞬間

この記事を書いた人:くるみん

がんサバイバー×看護師。療養と生活のリアルを発信中。
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手術室と聞いて思い浮かぶイメージ

「手術室」と聞いて、あなたはどんなイメージを持ちますか?
多くの人が思い浮かべるのは、冷たい・無機質・怖いという言葉ではないでしょうか。

私自身、がんの手術を控えたときに頭をよぎったのはまさにそのイメージでした。
「未知の世界に踏み込む怖さ」
「命を預けるしかない不安」

そんな気持ちが膨らみ、手術が近づくにつれて緊張が強くなっていきました。

でも実際に足を踏み入れた手術室は、想像とはまったく違うものでした。そこには“おもてなし”とも呼べる、医療スタッフの細やかな心遣いがあったのです。



前日から始まった「安心の準備」

手術前日の午後、病室には次々とスタッフが訪れました。

最初に来てくれたのは、当日麻酔を担当する女医さんと、手術室の看護師さん。
女医さんは柔らかな物腰で、こう話しかけてくれました。

「麻酔中は、くるみんさんの全身を管理させていただきます。どうかご安心ください。何か心配なこと、わからないことはありませんか?」

その言葉は緊張で固まっていた心をふっとほぐしてくれました。

看護師さんよりお気に入りの音楽があれば、手術室に入室するときにかけることができますがどうしましょうか?と声をかけられましたが、さすがに気恥ずかしくお願いはできませんでした。


マスク越しに見える看護師さんの笑顔。
「明日、この二人がそばにいてくれる」——そう思えただけで、不安はぐっと和らぎました。

手術と言ったら前日の夕食は出ないかもしれないと思いますが、腸の手術でなければ前日の夕飯は食べることができるようです。もしかしたら緊張や不安で食べられない、「最後の晩餐」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
私は手術中の栄養と考えしっかりいただきました!

食事後の内服薬として下剤が配られました。手術後に便意があっても大変ですので手術前に排便を済ませておくためです。たった一粒の下剤ですが、効くのだろうかと半信半疑で内服しました。
排便がなければ浣腸するそうです。さすがに恥ずかしいのでこれは避けたいところです。

さらに「眠れなければ教えてください」と看護師さんが声をかけてくださいました。
緊張のせいで寝つけなくなる患者は少なくないはず。私も試しに飲んでみたところ、気がつけばぐっすり眠れて朝を迎えていました。

「きちんと眠れてよかった」——。
この安心感は、手術当日の大きな力になりました。


当日の朝——すっきりと迎えるための工夫

朝6時、下剤が効きはじめ、排便もスムーズに完了。
もし便が残っていたら浣腸をする予定だったので、「準備が整った」という安心感につながりました。

その後は静脈血栓を予防するための弾性ストッキングを装着。
身につけられるのは術衣と下着のパンツだけ。

ヘアゴムもピアス、コンタクト、指輪もだめ・・・もちろん入れ歯も
ただ、ありがたかったのはメガネが許可されていたことです。

「大切な顔がぼやけて見えないまま、名前や部位を確認するのは不安ですからね」——
この配慮は患者にとって本当に大きいと感じました。

担当の病棟看護師さんが、手術チームの研修医、そして家族と一緒に手術室前まで付き添ってくれます。
入院当初からずっと見守ってくれた看護師さん。手術から病室に戻るときも同じ看護師さんが迎えてくれると聞いて、胸の奥がじんわり温かくなりました。

「いろいろ迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」


扉の向こうのおもてなし

そして、ついに手術室の扉の前。
ここから先は、私にとっても未知の世界です。

扉を開けると、淡いグリーンに統一された空間が広がっていました。
天井からは二つの無影灯が吊り下げられ、中央には手術台が鎮座しています。

緊張で足が止まりかけたその瞬間——。
昨日病室に挨拶に来てくれた看護師さんと麻酔科の女医さんが、待っていてくれたのです。

彼女たちは私の顔を見て、手首のリストバンドをバーコードで確認。
「お名前をお願いします」
私は深呼吸して、声に出しました。

「くるみんです。昭和50年8月12日生まれ。右の尿管がんの手術です。」

そのやりとりで、自分の覚悟を再確認するような気持ちになりました。

スタッフたちは仕事の手を止めて「おはようございます」と会釈。
スターになったような、あるいは社長にでもなったような気分に。
患者をこんなふうに迎えてくれるなんて、想像もしませんでした。

画像はイメージですが、こんな温かい印象を受けました。


無機質な空間に隠された温かさ

手術室はやはり飾り気のない無機質な場所です。
けれど、そこに流れていたのは“冷たさ”ではなく“温もり”でした。

一枚の肌着でも寒くないよう、室温は快適にコントロールされていました。
もし緊張で手足が冷えているのに室温まで低かったら、恐怖は倍増していたでしょう。

そして、案内された手術台。想像していた黒い硬い台ではなく、白い不織布のシーツに覆われ、柔らかく温かささえ感じられるものでした。
看護師としての私の目には、それが「褥瘡(床ずれ)防止マットレス」だとすぐに分かりました。長時間の手術でも身体に余計なダメージを与えないよう、患者を守る工夫です。

さらに、体を覆うエアーブランケット。温風が送り込まれる掛け布団のような装置で、全身をふんわりと温めてくれます。
不安よりも、温かさと安心感が勝っていく——そんな瞬間でした。

いまでも、麻酔が掛けられるまで手を握ってくれた看護師さんの温もりが残っています。助かりました。


麻酔の瞬間、そしてワープ

エアーブランケットが掛けられ、恥ずかしさに配慮していただきながら看護師さんの声に従って手術着を脱ぎ、下着も外されました。もちろん
「全裸になる」という事実に少し戸惑いながらも、温かい手術台とエアーブランケットに包まれ、不思議なほど安心できました。

その後、点滴が始まり、脊椎麻酔のために横向きになります。
数分で処置が終わり、再び天井の無影灯を見つめながら仰向けに。

麻酔科の女医さんがマスクを口にあてて、優しく声をかけてくれました。
次の瞬間——まるでワープするように、意識は途切れました。

気がついたとき、私はすでに病室のベッドの上。
6時間が経過し、寒さに震えながら目を覚ましたのです。


手術室は「怖い場所」ではなかった

がん患者として、手術に挑むことは決して簡単なことではありません。
不安や恐怖はどうしてもついて回ります。

でも、私が経験した手術室は想像していた「冷たく怖い場所」ではありませんでした。
そこには確かに“おもてなし”があり、患者を安心させる工夫と、人のぬくもりがあったのです。

手術室に足を踏み入れる患者さんに、この体験が少しでも安心を届けられたらと思います。

手術を受けることは誰しも不安です。その不安を看護師にお伝えください。


あなたならどう感じますか?

もしあなたが手術を受けるとしたら、どんな配慮があると安心できますか?
スタッフの挨拶、温かい手術台、家族と直前まで一緒にいられる時間……。

がん患者としての私の体験が、これから手術を控える誰かの背中を少しでも押せますように。

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