「がんは2人に1人の時代」
この言葉を、あなたはどこで聞いたでしょうか?
私が初めてこのフレーズを耳にしたのは、あるテレビCMでした。たしかアフラックのがん保険。白い背景に、静かな音楽。そして淡々と語られるナレーションが頭の中をかすめています。「日本人の2人に1人が、一生のうちにがんになる──」
それを聞いたとき、思わず背筋が伸びたのを覚えています。「そんなに多いの?」と驚くと同時に、リンチ症候群である私なので「もしかして自分も」と、不安がよぎりました。
その当時はまだ元気で、健康にもそこまで不安は感じていなかった私ですが、その言葉が胸のどこかにひっかかっていたのだと思います。まるで、未来の自分への警告のように──。
SNSで“共感の嵐”が起きた「2人に1人」問題
このテーマについて、実際に私がX(旧Twitter)に投稿した内容をご紹介します。 多くの方に共感いただいたこの投稿には、がんに対する率直な想いや違和感が詰まっていました。

【心の叫び】 2人に1人ががんになるって言うけど、それって生涯のうちにがんと診断される確率だよね? 50歳を回っていないんだよ。 人生100年時代なんて言われるのに、その半分の年でがんなんだよ! “よくある話”のように言うけど、周りを見ろよ!あんたの知り合いの2人に1人はがんかよ!
この投稿には、1万を超える表示と、多くのコメントが寄せられました。その中から印象的な声をいくつかご紹介します。

「そう言いますけど私の周りにそれほどがん患者いません。自分のように発表してない人が多いとも思えないし、よくある話ではない感覚です。」

「読んで泣きました私の部署では初めての癌患者だよ。 20人いてさ」

「よくある話と言われても、本人にはどの病気になったとしても大変なこと。自分に置き換えて考えて欲しい」

「ホント、そうですよね!!! 癌って分かったら差別的なことをされたので、それ以来表で癌のことは言わなくなりました。」

「人生100年時代にまだ40代なのに、がんになった」 」

「よくある話と言われても、自分がなったらやっぱりショック」

「2人に1人は、まやかしですね。以前なら脳血管疾患で寿命を終えていたのが、それらは医療の進歩でクリア出来て。40代での罹患率はまたまだ低いです。60代から徐々に上がっていく。 」
「統計としては正しい」と分かっていても、「今の自分の年齢で?」という疑問や、「自分がその“1人”になるなんて」と感じる衝撃は、多くの人に共通しているようです。
この反応の数々は、数字以上に“がん”という言葉が私たちの感情に深く結びついていることを証明しているように感じました。
あの言葉の出どころは?誰が言い出した?
この「2人に1人」という表現。 実はこれは、アフラックが作ったキャッチコピーではありません。
出どころは、国立がん研究センターの統計データ。
最新のデータでは、
- 男性は約65%
- 女性は約51%
出典:国立がん研究センター「がん情報サービス」https://ganjoho.jp/
これが生涯のうちにがんと診断される割合です。平均すると、日本人の55.4%、つまり約2人に1人ががんになる、というわけです。
アフラックをはじめとする保険会社は、この数字を元にCMやパンフレットを作り、がんのリスクと保険の必要性を伝えてきたのです。
だから、CMで聞いた言葉は、単なる広告のフレーズではなく、現実を映したものでもあったのです。
「がんになる」と「がんで亡くなる」は違う
ここで、ひとつ大事なポイントがあります。
「2人に1人ががんになる」という言葉は、 がんに“なる”確率=罹患率(りかんりつ)を表したものです。
では、実際にがんで亡くなる確率はどれくらいでしょうか?
- 男性:24.7%(約4人に1人)
- 女性:17.2%(約6人に1人)
平均すると、日本人の約5人に1人が、がんで亡くなっていることになります。
つまり、がんと診断されても、そのすべてが命に関わるものではありません。 今は治療法の進歩や早期発見によって、多くの人ががんと向き合いながら生きています。
実際、ステージⅠやⅡの早期発見による5年生存率は非常に高く、胃がんや大腸がんでは90%以上という数値も出ています。
数字の推移──がんになる人は増えている?減っている?
ここまで読むと、こんな疑問も浮かぶかもしれません。

「罹患率って、年々増えてるの?」
答えは、高齢化の影響で“絶対数”は増えているけれど、年齢調整で見ると横ばい〜やや減少傾向だそうです。
また、注目したいのは死亡率の推移です。
実は、1990年代半ば以降、 がんの死亡率はゆるやかに減少しています。
これは、医療の進歩、検診の普及、生活習慣の改善などが背景にあります。
がんはかつて「死に至る病」と言われていましたが、今は「向き合いながら生きていく病気」としてとらえ直されつつあります。
それでも、私たちは「怖い」と感じてしまう
こうした数字やデータを見れば、がんはもはや「死の宣告」ではないとわかります。
でも、それでもやっぱり「怖い」と感じてしまう。
私もそのひとりです。 実際に自分が診断されたとき、「2人に1人」の“1人”に、自分がなったんだと実感しました。
がんの宣告を受けた瞬間、それまで当たり前だった日常が音を立てて崩れていくような感覚になりました。
その時、あのCMの言葉がよみがえったのです。
数字の向こうにいる「誰か」を思う
「2人に1人ががんになる」と軽く言われたとき、がん患者はどう感じるでしょうか?
それはまるで、自分の闘病が“よくある話”として処理されてしまうような気持ちになるのです。
統計という形で見れば正確な数字かもしれません。けれどその言葉を、何の前触れもなく無神経に口にされると、心にチクリと刺さります。
「2人に1人って言うけど、私の周りそんなにいないし」
「みんながなるなら、あんたもいつかなるよ」
「がんって、最近多いからね」
こうした言葉を悪気なく言われたとき、私たちがん患者は、どこにも怒りをぶつけられず、ただ静かに傷つきます。
数字の裏には、悲しみや葛藤や、日々を懸命に生きる「誰か」がいます。言葉にするなら、少しだけ想像力を添えてほしい──そう感じずにはいられません。
最後に、あなたに問いかけたいこと
「2人に1人ががんになる」──この言葉を、あなたはどんな気持ちで受け取っていますか?
がん患者にとっては、この言葉が投げかけられるたびに、自分の闘病が“よくある話”の一部として扱われてしまうような、やるせなさや孤独を感じることがあります。
数字だけが一人歩きしているような世の中で、私たちは「誰かの物語」としてのがんを、どこまで想像できるでしょうか。
だからこそ、いま一度考えてみてほしいのです。
この言葉が、誰かの胸に突き刺さるとしたら──。それでも私たちは、この現実から目を背けず、前を向いていく必要があります。
あなたにとって、「2人に1人」とは、どんな意味を持つでしょうか。
※本記事は筆者の体験と信頼できる統計データに基づいて執筆していますが、診断・治療などの判断は必ず医療機関にご相談ください。
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