不安の始まりは、一本の電話から
泌尿器科クリニックから突然かかってきた電話。
「詳しい検査が必要です」——。
それだけの言葉。詳しい説明はない。ただ検査結果が思わしくないことを示唆する曖昧な言葉だけが残りました。
その瞬間、何か胸の奥に不穏な影が差し込むのを感じました。まだ確定診断ではない。
それはわかっています。それでも、「もしかすると、がんかもしれない」という考えが頭を離れません。
こうして始まった不安な日々。日中は仕事をしながら何とかやり過ごすものの、夜になると心の中で膨れ上がった不安が静かに形を変え、夢となって私のもとに現れるのです。
夢に刻まれた「がん」という言葉
9時半、いつものように布団に入りました。体はそれほど疲れていないのに、心の中でくすぶる「がんの可能性」という影が私を眠りへと誘う一方で、眠りの質をむしばんでいるのを感じます。
体はそれほど疲れていないのに、心のざわめきは消えない。
夢の中で私は暗い部屋に立っていました。
辺りは見渡す限り暗闇で、ただ白い紙が一枚、ぽつんと目の前に浮かんでいました。
その紙は「診断書」と書かれたA4サイズの用紙。
下には私の名前、そして「尿管がん ステージⅢ」という診断結果が無機質に記載されています。
「治療を要する」という文字が何よりも冷たく響きました。
その紙を目にした瞬間、心が一瞬で凍りつくのを感じました。「やっぱり…」と呟くような思いが頭をよぎります。
それ以上、何も考えられない。震えも涙も出ず、ただズドーンと心が重く沈み込んでいく。かすかな希望が消え、底の見えない沼に引き込まれていくような感覚でした。
この感情の中でふっと目が覚めました。深夜、真っ暗な部屋の中、隣で眠る妻の寝息がかすかに聞こえます。不安と孤独の波が押し寄せ、布団の中でじっと身を縮めました。

甘えたいけど、強がってしまう夜
隣の畳の上で眠る妻の寝息。それがどれだけ私の心を支えてくれているか計り知れません。
私はベッド、妻は畳に敷いた布団で寝ています。私を気遣い、今までは1階と2階で別々に寝ていましたが、がんの可能性が明らかになってからは、毎晩一緒の空間で過ごしてくれる妻。その優しさがどれほど心強いか。
でも、本当はもっと甘えたい気持ちがあります。布団にもぐり込み、「ぎゅっ」と抱きしめてもらいたい。手を握ってもらい、ただそばにいてもらいたい。
その温もりを感じられれば、胸の中の不安が少しは和らぎそうです。
それでも、働きながら明るく振る舞ってくれている妻に迷惑をかけたくないという思いが勝り、結局その気持ちは胸にしまったまま夜を過ごします。
「こんなに弱っているときぐらい、甘えてもいいんじゃないか」という自分と、「50歳を過ぎた男が弱さを見せてはいけない」という昭和的な価値観の間で揺れ動く自分がいます。この葛藤こそが、私の夜をより長く苦しいものにしているのかもしれません。
夢が伝えるもの
泌尿器科の電話からもう10日が経ちました。
その間、いろいろな夢を見ましたが、多くは朝になると忘れてしまいます。それでも今回の診断書の夢だけは鮮明に記憶に残っています。
こうしてブログに書きながら思うのは、夢が私に何かを伝えようとしているのではないかということです。
もしかすると、夢を見ることで心が少しずつ現実に順応しようとしているのかもしれません。
診断書という形でショックを受け止め、感情を処理する準備をしているような気がします。何度も繰り返すことで、少しずつ現実を受け入れるための訓練をしているのではないかとも思うのです。
現実に向き合うためには、まず心と体を休めることが必要です。
いろいろ考え込んでしまう夜でも、しっかりと眠り、心の安定を図るためにできることを積極的に取り入れるべきだと感じています。
それでも、朝はやってくる
真夜中に目が覚めると、布団を抜け出しリビングへと移動しました。
薄暗い部屋でノートパソコンを開き、感じていることを文章にしてみます。言葉にすることで少しだけ気持ちが軽くなりました。
ふと右を見ると、高校生の娘宛ての冬期講習の案内が目に入ります。
「治療にはお金がかかるのかな」「娘の進学はどうなるんだろう」そんな思いが渦巻きます。でも、こんな時だからこそ、家族のためにできることを考えるべきだと思います。
4時11分。もう完全に目が覚めてしまいました。あと1時間もすれば妻が起きてきます。それまでに娘のお弁当と朝食を準備するつもりです。
夜の間に感じた不安を振り払い、「おはよう」と明るく声をかけるために。
私が沈み込んでしまえば、家族全体の雰囲気が暗くなってしまう。それだけは避けたいのです。
受け止めて、また歩き出す
診断結果が確定するのはあと2日後。
それまで、この不安とともに過ごすことになるでしょう。
でも、夢や夜中の時間を通じて、自分の心が少しずつ現実に順応していくのを感じます。
診断がどうであれ、私はそれを受け止め、家族とともに前に進む覚悟をしています。
夜がどんなに長くても、朝は必ず訪れます。診断書の夢に沈んだ心も、妻や家族の存在、そして日常の小さな行動によって少しずつ明るさを取り戻していけるはずです。

不安な夜を超えたあなたは、きっともう少しだけ強くなっています。
どうか、自分の心をいたわってあげてください。
朝は必ず、やってきます。