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「髪が抜ける」それは命と向き合う証——抗がん剤による脱毛

この記事を書いた人:くるみん

がんサバイバー×看護師。療養と生活のリアルを発信中。
「前を向きたい人の、灯りになれるブログ」を目指しています。

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髪の毛が手の中に残った瞬間——患者さんの涙

「長い髪が自慢だったんです」 そう話してくれた患者さんの目には、すでに涙がにじんでいました。

化学療法が始まって数日後。 髪をとかそうとブラシを通した瞬間、驚くほどの量の髪の毛が絡みつき、その場で言葉を失ったそうです。

別の方は、シャンプー中に「なんだか指に違和感がある」と思ったら、手のひらに髪の毛がごっそり抜けていたと打ち明けてくれました。

さらに、朝目覚めたら枕の上にごっそりと落ちていた抜け毛に涙しながら、コロコロでそれを取り除いた日々を、今でもはっきり覚えていると語ってくれた方もいました。

看護師として何人もの患者さんと接してきた私ですが、どのエピソードにも共通するのは、髪の毛が抜けることが「がんと向き合う現実を突きつけられる瞬間」になっているということ。


なぜ抗がん剤で髪の毛が抜けるの?

私はがんサバイバーですが、まだ化学療法は受けたことがありません。 正直、看護師であるにもかかわらず、以前は「抗がん剤=毒性が強い」なので髪の毛が抜けるという程度の漠然としたイメージしか持っていませんでした。

でも最近、改めて学んで知りました。

抗がん剤が狙うのは「細胞分裂が盛んな場所」

がん細胞というのは、もともと「自分の細胞」が異常な増殖を始めたものです。抗がん剤は、そうした“暴走中の細胞”を止めるために開発されています。

その仕組みの一つが、「細胞分裂を止める」こと。

でも——ここが重要なポイントなのですが——抗がん剤は、がん細胞だけをピンポイントで狙ってくれるわけではありません。

実は、毛根の奥にある「毛母細胞」も、がん細胞と同じように、細胞分裂がとても盛んな細胞。髪の毛がどんどん伸びていくためには、それだけ活発に分裂を繰り返す必要があるんですね。

その結果、抗がん剤は毛母細胞にも影響を及ぼし、毛の成長が止まったり、途中で抜け落ちたりしてしまうのです。

この仕組みを初めて知ったとき、私は「なるほど、がんだけを狙うのは難しいんだ」とストンと納得したのを覚えています。

髪の毛が抜けることに、決して意味がないわけではない。
それは薬がしっかり体に働いている証でもあるのです。

分子標的薬や免疫療法は違う作用

よく患者さんから「抗がん剤は全部、髪が抜けるんですよね?」と聞かれます。 でも実際には、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬では、髪の毛が抜けることは少ないです。

その理由は、これらの薬が「がん細胞の特定の働き」を狙って作用するから。 細胞分裂そのものを阻害するわけではないため、毛根細胞への影響は少ないのです。


髪の毛だけじゃない——眉毛、まつ毛、鼻毛も抜ける

脱毛の影響は、頭髪だけにとどまりません。 眉毛、まつ毛、体毛、陰毛、鼻毛……体中の毛が薄くなったり、抜けたりします。

「鏡に映る自分が、自分じゃない」感覚

眉毛がなくなると表情が変わり、まつ毛がなくなると目にゴミが入りやすくなり、鼻毛が抜けると鼻水が垂れやすくなる—— 日常の中での「違和感」は、外見の変化だけでなく、自分という存在が少しずつ崩れていくような感覚につながっていきます。

ある乳がん患者さんの同僚は、がんを経験している私だけに、決して周囲に見せることのないケア帽子とウィッグを取った様子を私に見せてくれ「脱毛が地味に辛いのよね」と、そっと打ち明けてくれました。


美容師さんが泣いた——動画で見た、もう一つのリアル

最近、SNSである動画を見ました。 化学療法が始まる前に、自分の髪を短く整えるために美容室を訪れた女性。 何十年もその方の髪を切り続けてきた専属の美容師さんが、いざバリカンを当てようとしたとき、涙をこらえきれず泣き崩れてしまうシーンが映されていました。

その姿に、私は画面越しでも胸が締めつけられ、頬に一筋の涙がこらえきれずこぼれてしまいました。

美容師さんにとっても、お客さんにとっても、髪の毛は「ただの毛」ではない。 それは、人生そのもの、歴史そのもの、自分らしさの象徴なんだと気づかされたのです。


それでも、髪はまた生えてくる

治療が終われば、多くの方は再び髪の毛が生えてきます。 ただし、時間はかかります。

  • 抗がん剤終了後、1〜3か月で産毛
  • 6か月〜1年ほどで元の長さに戻ることが多い
  • ただし、「クセ毛になった」「白髪が増えた」「前と違う髪質になった」という声もあります

髪が再び伸びてくることは、治療を乗り越えた証でもあります。 たとえ違う髪質だったとしても、それはあなたの“新しい物語の始まり”かもしれません。


わたしが看護師としてできること——そして、あなたに伝えたいこと

私は看護師として、髪を失うことが患者さんにとってどれほどつらいかを、目の前で何度も見てきました。 でも同時に、そんな患者さんたちが自分らしく過ごすための工夫をしている姿もたくさん見てきました。

  • 医療用ウィッグを使って笑顔を取り戻した方
  • 自分に合う帽子やターバンでおしゃれを楽しむ方
  • 写真を残しておいて、眉毛やまつ毛の再現に活かす方

「髪が抜けたから、私は私じゃない」なんて、誰にも言わせたくない。 たとえ髪がなくても、あなたの価値は何ひとつ変わらない。 そう伝えたい。そう信じて、寄り添っていきたい。

本当に必要なのは、「自分で決められる選択肢」

脱毛対策としてウィッグを使いたい、でも経済的な不安がある。そんな声もたくさん耳にします。最近では、各自治体で医療用ウィッグやアピアランスケア(外見ケア)に対する助成金制度を設けている地域も増えてきました。

調べてみると、「あ、こんな制度あったんだ」と気づくこともあるかもしれません。今後、別記事でその情報も整理して発信していく予定です。

見た目よりも大切なことを忘れないで

髪の毛が抜けるのは、とてもつらいこと。

でも、それは「薬が体の中でがんと闘ってくれている証拠」でもあります。

そして、髪はまた、必ず生えてきます。

一時的に失うものもあるけれど、それ以上に「生きること」「治療をやりきること」が大切だと、どうか忘れないでいてください。

あなたのままで、十分すてきです。

「治療で髪を失うことが、こんなに心に響くなんて…」 そんな不安な気持ちに寄り添いながら、自分らしくいられるように。 自然な見た目と、やさしい着け心地で、外出も鏡を見るのも楽しみに変わります。 医療用ウィッグ、まずは試してみませんか?

まとめ:髪が抜けるのは「治療が効いている証」

脱毛は確かに心を揺さぶる変化です。 けれどそれは、治療が効いているサインでもあります。

私自身はまだその変化を経験していません。 でも看護師として、そしてがんサバイバーとして、脱毛に向き合うあなたのそばで、「自分らしくいられるように」寄り添い続けたいと思っています。

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