SNS投稿を看護師がんサバイバーが読み解いてみた
SNSで見かけた「がん検診は意味がない」「CTはがん製造機」について
SNSで「がん検診は無駄であり、CTは放射線を浴びさせがん製造機である」と発信している方を目にして非常に驚きました。そしてその投稿に多くの「いいね」やコメントがついており、一定の支持があることにも驚かされました。X上でもその方には多くのフォロワーがいて、影響力の大きさを感じます。
私は看護師であり、どちらかというと現代医療を支持する立場です。ですので、意見にはある程度バイアスがかかっているかもしれません。でも、もしかしたら「自然治癒力を高めればがんは消える」という考えも本当かもしれませんし、信じることもかまいません。
Xやブログでがん関連の情報を見ていると、「これは本当なの?」と戸惑うような投稿や広告があふれていることに驚きます。中には高額な自費診療や、標準治療以外の“奇跡の治療法”を紹介している広告も多く、「信者ビジネスなのでは」と感じてしまうようなものもあります。
がんを宣告されたとき、私もとても不安でした。「本当に効果のある治療を受けたい」「どこの病院が信頼できるのだろうか」「治療成績が良いのはどこ?」と、情報を探し続けた時期があります。
自費診療では初診だけで数万円かかるケースもありますし、継続的な治療費や“まずはこの本を読んでください”という商品提案など、ビジネス要素が強く感じられる場面もあります。
それでも、多くの方がそういった道を選ぶのは、やはり「現代医療では効果がなかった」「副作用が強くて断念した」「医師から『もう治療法はない』と言われた」という背景があるからだと思います。まさに“藁にもすがる思い”で、最後の希望として自費診療に進まれるのでしょう。
現代医療を信じられなかったり、受けた治療が効果がなかった、副作用が大きくて断念せざるを得なかった、医師に「もう治療法はない」と言われた…そんな方々が一縷の望みをかけて、標準治療以外の選択肢に向かうのは自然な流れかもしれません。

私のスタンスはこうです:
「民間療法や高額な自費診療を信じるのは、個人の裁量として尊重したい。ただし、それを他人に“効果がある”と断定的に勧めるのは慎むべきだ」
偶然にがんが消えたケースもあるかもしれません。でも、それを声高にアピールすることで、「万人に効くかもしれない」と思わせるビジネス戦略になっている可能性もあります。そして実際には、そのような療法を信じて状態が悪化した方も少なくないと感じます。
がん治療において、現代医学が行っている標準治療は、数多くの臨床試験や研究を通して「効果がある」と科学的に認められた治療法です。対して、民間療法や自由診療は科学的根拠(エビデンス)が不十分な場合が多く、効果が限定的、あるいは身体に害を与える可能性すらあります。
一方で、たとえば歯科治療や美容整形などは、エビデンスよりも“満足度”や“見た目”が重視されることが多く、「お金をかけた分だけ成果が見えやすい」分野とも言えるかもしれません。がん治療とは本質的に違う性質を持っていると感じています。
本当にCTや検診は危険?
確かにCTやレントゲンは、X線を用いた「放射線検査」です。
ですが、一回の検査で受ける放射線量は微量で、例えば胸部レントゲンの場合は0.05mSv(飛行機で日本からニューヨークを往復するのと同程度)とされています。
これは日本医学放射線学会やICRP(国際放射線防護委員会)のデータでも明記されており、「検査によるリスク」よりも「早期発見によるメリット」の方が圧倒的に大きいというのが医療界のコンセンサスです。

📊 放射線の「被ばく量」って実際どのくらい?
がんの検査で使われるCTやレントゲン。
「被ばくが心配…」「体に悪いんじゃないか」と不安になる方も少なくありません。
でも、実際の放射線量を見てみると、私たちが日常生活で自然に浴びている量と大きく変わらないことも多いんです。
以下は、放射線を受けるさまざまな場面の目安です👇
シーン | 放射線量の目安(mSv) | 解説 |
---|---|---|
自然界から1年間に受ける放射線(日本平均) | 約2.1 mSv | 🌏地面や宇宙、食べ物から無意識に浴びている量 |
飛行機で日本〜アメリカ往復 | 約0.2 mSv | ✈高度が高いほど宇宙線を多く受けるため |
胸部レントゲン1回 | 約0.05 mSv | 📷ごくわずかな線量。自然放射線の約1/40程度 |
胃バリウム検査1回 | 約6 mSv | 🥤一般的ながん検診の1つ。年1回程度なら問題なし |
胸部CT1回 | 約7 mSv | 🩻広範囲かつ高精度な検査。症状のある人には有用 |
胸腹部CT | 約10〜20 mSv | 🔍撮影範囲が広がると線量もやや増えます |
PET-CT検査 | 約25 mSv | 🧠がんの広がりを調べる高度検査です |
☘️ 「被ばく=危険」ではないことを知っておいてほしい
実は、「被ばく」と聞いてすぐに危険と思われる方が多いですが、100mSv未満の被ばくでがんリスクが確実に増えるかどうかは、まだはっきりしていません。
そして、医療で受ける放射線は…
- 検査によって得られる“命を救う情報”と放射線のリスクを天秤にかけて判断されています。
- 医師は「診断参考レベル(DRL)」という基準をもとに、最小限で最大の効果が得られるように検査を調整しています。

海外はCTを撮らないの?
これもよくある誤解です。 海外では「必要なときに最小限で行う」ことが重視されているだけで、CTやレントゲン検査自体が否定されているわけではありません。
たとえば、USPSTF(アメリカ予防医療作業部会)では「乳がんや大腸がんの検診」を積極的に推奨しており、NCI(米国がん研究所)でも「検診は死亡率を低下させる」と明言しています。
「抗がん剤で殺された」「現代医療で死んだ」
SNSでよく目にするこの表現も、極端で誤解を招くものです。
抗がん剤や放射線治療は副作用がありますし、時に免疫力を下げて感染症リスクを高めることも事実です。
ですが、それを上回る「命を救ってきた実績」があるからこそ、標準治療として今も世界中で行われているのです。
国立がん研究センターも、早期発見・治療による5年生存率の向上を報告しており、科学的にもその意義は確かです。
SNSの情報に振り回されないための3つのヒント
SNSを見ていると、がんに関する情報があふれています。
なかには「CTはがん製造機だ」といった極端な表現や、「○○療法で治った!」という体験談が拡散されていることもあります。
そんな時こそ、立ち止まって、次の3つの視点を持つことが大切だと思います。
1. 「医療者だから正しい」とは限らない
もちろん医療者は専門知識を持つ立場です。
ですが、すべての発言が科学的な裏付けに基づいているとは限りません。
たとえば、「CTはがん製造機」と主張する医療者がいたとしても、それが個人の意見にすぎなければ、そのまま鵜呑みにするのは危険です。
医療者にも考え方の違いや立場の違いがあり、中にはビジネス的な発信をしている場合もあります。
大切なのは、「誰が言っているか」ではなく、「何を根拠に言っているか」。
肩書きに左右されず、発言の裏にある根拠を確認する姿勢が大切です。
2. 数値やデータに目を向ける
「がんになる!」「危険!」といった言葉は、どうしても目を引きます。
でも、冷静になるためには「数字を見る」ことが有効です。
自然界で年間で浴びる放射線量は、おおよそ 1.5〜2.1ミリシーベルト/年であり、安全基準の範囲内で行われています。
こうした数値を知ることで、「漠然とした恐怖」を「具体的な理解」に変えることができます。
数字は、不安を整理し、冷静に判断する材料になります。
3. 他人の体験をそのまま自分に当てはめない
「○○さんが○○療法で治ったらしいよ!」という話、よく耳にしますよね。
その人の体験が励ましになることもあります。
でも、がんの種類や進行度、体質、治療歴、併用していた治療などは人によって異なります。
たまたま効果があったケースを「誰にでも効く」と信じてしまうと、選択を誤ってしまうこともあります。
大切なのは、「自分にとって、いま必要な治療は何か」を医師と相談して決めること。
体験談は参考にとどめて、自分の状況に合った選択をしてほしいと思います。

💡ひとことメッセージ
SNSには役立つ情報もありますが、誤解を生む情報も少なくありません。
「信じたい気持ち」と「立ち止まって考える力」──
その両方を大切にして、自分の命を守る選択をしてほしいと思います。
私は「必要な検査」を受けて良かった──もしCTを避けていたら?
私は、不安もありつつ造影CTを受けたことで病気が見つかり、治療に進むことができました。
でも、もし私が「CTはがん製造機」だと信じて、レントゲンやCTを避けていたら──どうなっていたでしょうか。
体のむくみや倦怠感があっても健診を受けず、血液検査や画像検査を拒み、温熱療法や水素水、自然治癒力を高めるという食事療法だけに頼っていたら──。
きっとその間に、がんはみるみる進行していたと思います。
定期的な検査は命を守るために必要ですし、放射線検査は最小限の被ばくで非常に大きな恩恵(ベネフィット)を与えてくれます。
私は看護師としても、「検査はしっかりと受けるべきもの」だと確信しています。
いま医療は、治療だけでなく「予防」にもシフトしています。 そのためには、適切かつ定期的な検査で早期に病気を発見し、早めに対応することが重要です。結果として大きな手術や侵襲的な治療を避けられる可能性が高まり、短期間で治療が終わるケースも増えます。
それは患者にとって負担が少ないだけでなく、社会全体としての医療費削減にもつながるのです。
もし、あのとき、検診を避けていたら。そう思うと・・・素直、50歳半ばで天国に行っていたことでしょう。
「はっきりした病名なんて知りたくない」という気持ちもわかります。 でも、知らないまま進行してしまったら、「選べたはずの選択肢」さえ失われてしまう。
そんな思いで、私は「知ることは、格別の幸せをもたらす」と思うようになりました。
自然治癒力を否定するわけではありませんが、それだけに頼っていたら、いまの日本の平均寿命がここまで世界水準を超えることはなかったと思います。
抗がん剤や放射線治療は、確かに副作用が強く出る場合もあり、苦しむ患者さんも多く見てきました。中には副作用に耐えきれず、他の疾患を併発してお亡くなりになる方もいました。でもその一方で、多くの方がその治療を乗り越え、復活していく姿も見てきました。
副作用を上回る効果や実績があるからこそ、世界中で標準治療として用いられているのだと、私は信じています。

読んでくれたあなたへ
不安な情報がSNSに溢れる今、揺れるのも実は当然です。
でも、この記事が「情報を正しく見極める」きっかけになれば嬉しいです。
情報は選べます。学びも深められます。 そして、何より「行動を選ぶ」のは、あなた自身なのです。
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