夏でも靴下が手放せない理由|がん患者の“冷え”との付き合い方とおすすめグッズ
はじめに
がん治療中、そして術後の身体って、自分が思っている以上に繊細です。
私が手術を受けたのは冬でした。体を冷やさないように…と、上下ヒートテックに身を包み、車の中ではひざ掛けをかけ、さらにハンドルの冷たさ対策に手袋まで着けていたのを今でも覚えています。職場に復帰した後もしばらくは、レッグウォーマーや腹巻きが欠かせませんでした。
「冷え」に対して、ここまで気をつけたことって、がんになる前はなかったかもしれません。
でも―― がん治療中の身体にとって、冷えはただの“寒さ”では済まされない、地味だけど深刻な敵。
治療中・術後の体は体温調整がうまくできず、特に手足の先が冷えやすくなったり、冷房がとてもつらく感じつつあります。また、化学療法を受けた方からは、末梢神経障害や血管収縮の影響で冷えやしびれ、発汗の異常を感じることがあるとも聞きます。
夏でも靴下が手放せなくなり、暑いのだけど部屋の中では体が冷房で過度に冷えない工夫をしなきゃと思うこの頃です。
「冷房が辛い…でも暑いのもつらい」 「何を着れば快適に過ごせるんだろう?」
そんな風に感じているあなたに向けて、今回はがん患者・術後の方が“冷え”にどう向き合えばいいのか、医学的な根拠も交えながら、実際に役立ったグッズや工夫をご紹介します。
がん治療中・術後に「冷え」が与える体への影響とは?
冷えると「傷が痛む」──私の実体験
私が手術を受けた直後、特に感じていたのは「冷えると傷がとにかく痛む」ということでした。
たとえば車の中や寒い部屋にいると、傷口のあたりがキリキリと痛み出すような感覚がありました。そのため、患部に直接冷気が当たらないようにタオルを巻いたり、服を二重にしたりと、できる限り“冷やさない工夫”をしていました。
あたたかくするとスッと痛みが軽くなることもあり、「冷えが痛みを強める」というのは自分の体で強く感じた事実です。
4月ごろは快適でしたが、5月になり部屋に冷房が効いていたりするとてきめんに、手術の傷跡が痛むのです。「ああ、手術の傷ってとても敏感なんだな」とこの時初めて知りました。
「首がつく部分を冷やすな」には理由がある
「首・手首・足首」など、“首がつく”部分を冷やさない方がいい、とよく言われます。 実はこれ、身体の熱が逃げやすいポイントでもあり、医学的にも納得できる考え方です。
これらの部位には太い血管が皮膚のすぐ下を通っていて、冷えると全身の血流が悪化しやすくなります。血流が悪くなれば、免疫機能の低下・傷の治りが遅れる・疲労感が取れないなどの影響も。

傷の痛みには「温める」という選択肢もある
術後の痛みに対して、私はカイロを使って傷の周囲を温めて夜寝ていたことがあります。
冷たい空気が当たると傷口がズキズキと痛み出す一方で、じんわり温めることで痛みやこわばりがやわらぎ、自然に眠ることができた。
もちろん、使用には注意が必要です。
- 傷口に直接カイロが当たらないようタオルを挟む
- 長時間の使用は避ける
- 低温やけどに注意
それでも、寒い日の夜に不安や痛みに悩まされていた私にとって、カイロは“お守り”のような存在でした。
冷えがもたらすその他の影響
- 筋肉のこわばり・関節痛の悪化
- 自律神経の乱れ
- 内臓機能の低下
「たかが冷え」と思っていたけれど、「されど冷え」 がん治療中の体にとっては、冷えは確実に“敵”でした。
がん治療中・術後に本当に役立った“冷え対策グッズ”たち

① ひざ掛け(ブランケット)
定番だけど、使い方次第で体感温度がまるで違うのがひざ掛けです。車の中、病院の待ち時間、自宅のソファでも、これ1枚があるとホッと安心できます。
② ストール(マント・肩かけタイプ)
首元・肩・背中をじんわり温めるのに最適。夏場の冷房対策にも軽やかに使えるので、通院時にもおすすめです。
③ カイロ(貼るタイプ・持ち歩きタイプ)
術後の傷の痛み対策、外出時の冷え、夜間の安眠用としても大活躍。
④ レッグウォーマー&アームカバー
靴下よりも手軽に脱ぎ着できて、冷えのポイントをしっかりカバー。エアコン対策にも◎。
⑤ 腹巻き(シルク・綿素材)
内臓冷えを防ぐことで、消化機能や免疫力も安定します。夏でも快適に使える薄手素材がおすすめ。
⑥ 室内履き&くつ下
エアコンの中では足元の冷えに注意。綿の靴下やボア付きスリッパが心地よく、冷え予防にも効果的です。
⑦ 湯たんぽ(布カバー付き・小型)
電気を使わず、じんわり温められるアイテム。傷まわりの緊張緩和、背中や足元の保温にも◎。夏でもクーラーの冷え対策として密かに人気。
⑧ 巻きスカート型ブランケット
膝掛けよりずれにくく、腰・お腹まわりの保温に特化。病院の待合室や車の中での使用にも便利。冷気対策しながら動けるのが利点。
⑨ 遠赤外線タイプの腹巻・レッグウォーマー
遠赤外線素材(セラミック入りなど)はじんわり温まり、体の芯からポカポカ。夜の就寝時におすすめ。
⑩ シルク100%のインナー(肌着)
汗を吸っても冷えにくく、夏でも冬でも使える万能素材。敏感肌でもチクチクしにくく、化学繊維に弱い方にも。
⑪ ネックピロー(電子レンジ加熱タイプ)
首肩の冷えと緊張を緩和する温熱アイテム。小豆やセラミックビーズ入りタイプなら、リラックス効果も高く就寝前に最適。

実は保冷剤を温めて使うと、同じように温熱アイテムとして使えますよ。病院でも手先が冷たい方にはケーキの箱に入っているような保冷剤を温めたものをお渡ししていました。
体を温めることは、心を落ち着ける「習慣」でもある
私は、お腹や腰を温めると、気持ちまでほっとして眠れることがありました。
たとえば、夜にお腹にカイロをあてて眠るだけで、 「今日も大丈夫だった」「明日も大丈夫かもしれない」 そんな風に、気持ちが整って、安心して眠れる夜がありました。
逆に、冷えてお腹がゆるくなったり、傷がうずいたりすると、 「体がちょっとした不調を感じるだけで、眠りも浅くなる」 そんな繊細な夜も、がん治療中にはよくありました。
冬には、カイロが心の支えでした。もしカイロがなかったら、「寒さで眠れない」というより、“不安で眠れない”夜が続いていたかもしれません。
冷やすことも「悪」ではない──体との対話で選ぶケア
ここまで「体を冷やさないことの大切さ」について書いてきましたが、“冷やす”ことが常に悪いというわけではありません。
特に夏場の熱中症対策としては「首・手首・足首」を冷やすことで体温を下げる効果があります。血液を効率よく冷却できるため、体全体の負担を減らすことができます。

高熱が出ている場合は、わきの下や足の付け根(ソケイ部)を温めると効率的に熱が下がります。おでこを冷やすのは冷たさを感じやすいので、快適性のためかな。
ただし、がん治療中の身体は体温調整が難しくなっているため、「冷やしすぎ」や「急激な冷却」には注意が必要です。
- 冷却アイテムは短時間、必要なときにだけ使用する
- 自分の体調を見ながら温冷バランスを取る
- 身体の深部が冷えていないか注意する
冷えすぎも暑すぎもどちらもつらい——自分の体に耳を傾けて、“ちょうどよく心地よい”を目指すケアが大切です。
おわりに:体温調整も「セルフケア」のひとつ
がんになる前は、まさか自分が“冷え”にここまで敏感になるなんて思っていませんでした。
でも、治療中の体は繊細で、体温の変化ひとつで調子を崩してしまうこともある。だからこそ、温度に気を配ることは「自分を大切に扱う」ためのセルフケアなんだと思います。
温めること。必要に応じて冷やすこと。どちらも、“がんとともに生きる”ための大切な知恵です。
今日の体調に、そっと目を向けてあげてください。 あなたの快適さを守ることは、あなた自身を大切にすることにつながっています。