【本記事は「がん患者あるある」シリーズ第3回/全6回の連載企画です】
がんの治療って、体力的な痛みや不安だけじゃなく、実際に体験してみないと分からない「日常のあるある」がたくさんありますよね。 今回は、私自身の治療経験を元に「治療あるあるベスト10」をお届けします。
笑いあり、涙あり。きっとあなたも「わかる!」と思えるものがあるはずです。
① くしゃみは地雷!傷口に電撃が走る瞬間
② 食べたけど出ない…“出口問題”のジレンマ
③ 油性ペンで「右尿管」って…手術前の“謎マーク”
④ バルーン外れたら、現実がやってくる
⑤ 初めての薬にはドキドキ「副作用出ないで!」
⑥ 「説明、聞いたはずなのに…」頭が真っ白問題
⑦ 脳内リハーサル止まらない!診察前の“ひとり劇場”
⑧ 入院中、やりたいことが何一つ進まない
⑨ 薬の名前にめちゃくちゃ詳しくなる
⑩ 遠慮と葛藤、ナースコールのタイミング問題
① くしゃみは地雷!傷口に電撃が走る瞬間
術後数日間で最も恐ろしかったのが、なんと“くしゃみ”。普段なら何ともないくしゃみが、術後はまるで地雷。お腹に電流が走るような痛みが全身に響くんです。
看護師としては「両手で傷を押さえてくしゃみすると楽ですよ」と指導してきたけど、自分が患者になったら、あのアドバイスじゃとても追いつかない…。
鼻がムズムズするたびに恐怖を感じる、そんな数日を過ごしました。あの痛みを思い出すと、今でも自然と身構えてしまいます。
② 食べたけど出ない…“出口問題”のジレンマ
術後に食事が再開されるのは嬉しい瞬間。けれど同時に襲ってくるのが“出口問題”です。
腹部の手術のあと、いきむのが怖くてトイレで固まりました。痛みと不安が重なり、便意があっても出ない。でも、食べないと体力は回復しない…そんなジレンマを抱えながら数日を過ごしました。
私の場合、次の手術では「早めに下剤を使う」ことを学びました。食事と排泄――改めて、身体のバランスって大事だなと痛感した経験です。
③ 油性ペンで「右尿管」って…手術前の“謎マーク”
手術当日の朝、突然手に「右尿管」と油性ペンででっかく書かれました。これは誤手術防止の安全対策とわかっていても、改めて手を見て「お、おう…」と戸惑ってしまう。
手術後もしばらく手が洗えず、この文字としばらく一緒に過ごすことに。でもこの文字が消える頃には「手が洗えるようになった」「歩けるようになった」という回復の目安になっていました。
見た目はちょっと笑えるけど、思い返せば大切な患者誤認防止のためのアイデアだったんだなと思います。

④ バルーン外れたら、現実がやってくる
術後すぐに挿入されるバルーンカテーテル。最初は「これ、トイレ行かなくていいから楽だな」と思っていた私。
でも、いざ外されて自力排尿になると、緊張が一気に襲ってきます。「ちゃんと出るのか?」「痛くないか?」とトイレに行くのもドキドキ。
そして、これまで看護師さんがしてくれていた排尿ケアを自分でやらねばならず、まさに現実に引き戻される瞬間。
歩くのも痛い中、「これもリハビリだ」と自分に言い聞かせて、一歩一歩進みました。
⑤ 初めての薬にはドキドキ「副作用出ないで!」
新しい治療や薬が始まる日は、いつもと違う緊張感があります。
私の場合は、BCG療法の初回が特にドキドキでした。弱毒化した結核菌を膀胱に入れると聞いて、「本当に大丈夫?」と内心不安でいっぱい。投与後も熱や痛みが出るんじゃないかとビクビク…。
でも、Xでつながった患者仲間たちが「最初はみんなそうだよ」「事前に座薬の処方をお願いしといたほうがいいよ!」と言ってくれたことで、とても安心できました。経験者の声って、本当に大きな支えになりますよね。
⑥ 「説明、聞いたはずなのに…」頭が真っ白問題
がんと診断された日、医師からの説明をちゃんと聞いていたはずなのに、家に帰る頃には頭が真っ白。
「右の尿管に腫瘍が…」と聞いた瞬間から、頭の中に靄がかかったような感覚に。
看護師として、同じような説明を何度もしてきたのに、いざ自分が“患者”になると、こんなにも心が追いつかないんだと痛感しました。
だから今は、自分にも患者さんにも「メモを取るだけで大丈夫」「あとで思い出せばいい」と伝えています。
⑦ 脳内リハーサル止まらない!診察前の“ひとり劇場”
限られた診察時間。
だからこそ、「あのことを聞こう」「このことも忘れずに」と、診察前は頭の中で何度もリハーサルをしていました。
メモも用意して、万全の態勢。でも、診察室に入った途端、緊張で頭が真っ白に…。こんな経験、ありますよね?
患者さんにも「メモを用意すると安心ですよ」と声をかけてきたけれど、自分がやってみて初めて、その必要性がよく分かりました。緊張しても大丈夫、備えあれば憂いなしです。
⑧ 入院中、やりたいことが何一つ進まない
「入院中は時間がたっぷりあるから、仕事の整理や読書でもしよう」そう思って入院した私。
でも、実際は検温、採血、検査…と常に予定が詰まっていて、気がつけば1日が終わっていました。
手術後は痛みもあって、ベッドでじっとしているのがやっと。スマホすら見る気になれませんでした。さらに、がん治療という現実が頭から離れず、心もずっと落ち着かない。
結局何も進まなかったけど、「それでよかった」と今は思います。入院は心と体を休める時間だったんです。
⑨ 薬の名前にめちゃくちゃ詳しくなる
がん治療が始まると、薬の名前がどんどん頭に入ってくるようになります。
「アロキシ」「デカドロン」「シスプラチン」――最初は呪文みたいだったカタカナ薬も、いつの間にかスラスラ。
副作用や効果を調べ、自分に合うかどうかも気にするようになります。
患者さん同士の会話で「今、○○使っててね」と言えば、「ああ、あれね!」と即理解されるのも“あるある”。病名より薬名でつながる、そんな不思議な絆ができていくんです。
⑩ 遠慮と葛藤、ナースコールのタイミング問題
「ナースコール、今押してもいいかな…?」 看護師としての経験がある私にとって、これは切実な“あるある”でした。
勤務交代の時間?申し送り中?夜勤の巡視中?…そんなことを考えているうちに、なかなか押せずに我慢してしまう。
でも、結局は耐えきれずに押してしまったとき、看護師さんから「我慢しなくていいんですよ」と優しく言われて、思わず涙が出そうになりました。
患者になって初めて分かる、ナースコールの“重み”と、それを支えてくれる一言の力です。
【まとめ:治療の中にも“笑いと共感”を】
がん治療には、痛みや不安と同じくらい、リアルな“日常あるある”が詰まっています。 ひとつひとつは小さな出来事だけど、患者として過ごす中では大きな意味を持ちます。
「わかる」「自分だけじゃないんだ」―― そんな共感を通して、今日もちょっと心が軽くなりますように。
次回は「人間関係あるある編」。周囲との付き合い方や、言葉に傷ついた体験などを共有します。 お楽しみに!