がんの治療を受けていると、医師や看護師が使う「専門用語」だけでなく、患者さん同士でしか分からない“隠語”や“言い換え”に出会うことがあります。
これらの言葉は、重い現実を少しでも軽くしたり、仲間との共感を深めたりするために生まれたものです。
今回は、私自身がよく耳にする、そしてSNSなどでもよく見かける「がん患者さんが使う隠語・言い換えTOP5」をご紹介します。
1位 卒業
「卒業」は、がん治療が終わったことを意味する、患者さんにとって特別な言葉です。
「ついに卒業の日が来た!」といった声には、喜びと安堵、そして新しい生活への期待があふれています。
👉 私も“卒業”という言葉を聞くだけで、自分のことのように嬉しくなります。
がんと確定診断された時点が「入学」だとすれば、その後の治療生活は「学園生活」のようなものかもしれません。もしかすると、がんサバイバーの人生は「永遠の学園生活」と表現できるかもしれません。そして、ある意味で「人生の最期」もまた、卒業という言葉で表されるのかもしれません。
「卒業」は、化学療法を終えたとき、手術や放射線治療を乗り越えたとき、あるいは寛解してしばらく経過観察になったときに使われることが多いようです。嬉しいキーワードである一方、人生の卒業というニュアンスもあるため、少し複雑な思いが込められる言葉です。

2位 ワープ
全身麻酔をして手術に入ると、気づいたときにはもう終わっている。その不思議な感覚を「ワープ」と呼ぶ患者さんは少なくありません。
👉 「眠った瞬間に未来へワープした気分だった」…これは手術を経験した人ならではの共感ポイントです。
私自身も「ワープ」を体験しました。日常の睡眠とはまったく違って、手術室に入って麻酔を投与された瞬間から記憶が消え、次に気がついたら個室のベッドに横たわっていました。手術時間はおよそ6時間。まるで時間を飛び越えるタイムスリップをしたかのようでした。
「不安な手術」を「不思議なワープ体験」に言い換えることで、患者さんは気持ちを少し軽くすることができるのです。
私の勝手な主観ですが、手術当日、弾性ストッキングを履いて「これからワープしてきます」というPOSTが流行っているような気がします。私もやりました。

3位 赤い悪魔
ドキソルビシンは、たしかに副作用が強く「赤い悪魔」と呼ばれます。
しかし同時に、乳がんや白血病、リンパ腫など幅広いがん治療に使われてきた「実績ある抗がん剤」でもあります。
その効果は高く、多くの患者さんの命をつないできたのも事実です。
だからこそ、患者さんの間では「恐ろしい存在」でありながら「頼れる武器」としても語られるのです。
私自身はまだこの薬を投与された経験はありませんが、仲間の投稿を見ていると、
「副作用に苦しんでも、効いてくれるなら赤い悪魔と戦う」
「悪魔でも、味方にできれば最強の武器」
そんな声に心を打たれます。
つまり「赤い悪魔」という言葉には、恐怖と希望の両方が込められているのです。
【ドキソルビシン】
古くから広く使われてきた抗がん剤の一つです。点滴の色は鮮やかな赤色でかき氷のストロベリー色といったところでしょうか。
主に使われるがんは、乳がん 白血病 悪性リンパ腫 骨肉腫 肺がん 卵巣がん といった幅広いがんに使用される基本的な抗がん剤の一つです。
副作用は、骨髄抑制 脱毛 吐き気・嘔吐 口内炎 心筋障害です。
ドキソルビシンは非常に効果が強いですが、副作用も強い薬。だからこそ「赤い悪魔」と呼ばれる一方で、おおくの患者さんを救ってきた頼れる存在なのです。

4位 断髪式
抗がん剤による脱毛が始まる前に、自ら髪を剃ることをあえて「断髪式」と呼ぶことが多いです。儀式のように表現することで、少しでも気持ちを前向きにしようとする工夫なのでしょう。
👉 実際に「家族に見守られて断髪式をした」という投稿を見ると、勇気と強さを感じます。
私が印象に残っているのは、あるショート動画です。
長年通っている美容室で、女性の患者さんが「丸刈りにしてください」とオーダーしました。彼女はこれから抗がん剤を始めるため、脱毛が予測されていたのです。その場にいた専属の美容師さんは、事情を知った瞬間に涙をこらえきれず、泣き崩れてしまいました。
断髪式は、女性にとってとても大きな意味を持ちます。髪はアイデンティティの一部であり、それを失うことは強い喪失感を伴います。それでもあえて「断髪式」と呼ぶことで、悲しい出来事を自らの意志で乗り越える節目として受け止めているのです。

5位 エンドレスケモ
「ケモ(化学療法)」が終わったら自由になれると思っていたのに、次から次へと治療が続いていく…。そんな現実を表現する言葉が「エンドレスケモ」です。
👉 「卒業」とは対照的でありながら、多くの患者さんが共感する“リアルな言葉”です。
永遠に終わりのないトンネルを歩いているような気分。SNSでは「エンドレスケモだけど前向きに生きる」と発信する方も多く、ユーモアを交えて受け止めている姿に励まされます。
しかし現実には、精神的・肉体的・そして経済的な負担が重くのしかかります。卒業という目標が見えないまま治療が続くことは、本当に大きな挑戦です。だからこそ、この言葉には「しんどいけど頑張っている」という患者さんの強さと葛藤が込められているのです。

まとめ
がん患者さんが使う隠語や言い換えは、単なる言葉遊びではありません。
「卒業」という希望の言葉もあれば、「エンドレスケモ」という現実を突きつける言葉もある。
それぞれの言葉には、治療を経験した人にしか分からない思いや願いが込められています。
患者さん同士のコミュニケーションは、このような隠語を通じて「共感」と「つながり」を育みます。
そして医療者や家族にとっても、こうした言葉を知ることで、患者さんの心に寄り添いやすくなるのではないでしょうか。
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