はじめに|「胃がない生活」は、想像以上にむずかしい
「胃を全部取ったら、もう普通に食べるなんて無理なのかな…」 「少し食べただけなのに、なんでこんなに苦しいの?」
胃がんの手術で胃を全摘された方から、そんな声をよく聞きます。 実は、胃がなくなると、体の中の“栄養の流れ”ががらりと変わるんです。
でも、ちょっとした工夫で、「胃がなくても食べられる」「食べるのが怖くなくなる」ことって、実は可能なんです。

このブログでは、看護師として患者さんを支えてきた私の経験をもとに、無理せず続けられる食事のコツや補助食品の選び方をお届けします。 また、肝機能が悪化してきた方への注意点や食品の選び方も合わせて紹介しますので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
胃全摘後の体で起きていること|あなたの体はこう変わる
胃を全摘したあとの体では、食べたものがダイレクトに小腸へ送られるようになります。 つまり、「前菜抜きでいきなりメインディッシュに突入」みたいな状態。小腸もびっくりです。
1. 食後すぐの不調(ダンピング症候群)
食べ物が急に小腸に流れ込むことで、めまい・動悸・冷や汗・腹痛・下痢などが起きることがあります。 これは「ダンピング症候群」と呼ばれ、胃がなくなった方の約半数以上が経験すると言われています。
2. 消化酵素や胃酸が激減 → 栄養の吸収力ダウン
胃には、「食べ物をこねて、消化液とまぜて、小腸に送り出す」という大事な仕事がありました。 それがなくなると、特に脂肪やたんぱく質の分解・吸収がうまくいかず、便に脂が浮いたり(脂肪便)、下痢になりやすくなります。

間違えやすいんだけど、胃には栄養の吸収能力はありません。「こねて・混ぜて・送る」ミキサー車みたいなものですね!
3. 食事量が減る → 体重減少・筋肉の低下
満腹感を感じやすくなるため、一度に食べられる量が激減します。 すると、栄養不足からやせ細ったり、筋肉が減ってフレイル状態になるリスクも…。

フレイルとは、年齢や病気によって筋肉や体力が落ち、心身の機能が弱くなっている状態のことです。放っておくと寝たきりや介護が必要になるリスクが高まります。
4. 肝臓に負担がかかり、肝機能の数値が悪化することも
脂肪の代謝が乱れやすくなり、脂肪肝や肝機能障害(AST・ALT上昇)が起こるケースもあります。 特に、脂質が多い食事や糖質のとりすぎには注意が必要です。

私の母もそうですが、体重は15㎏ほど落ちてしまいました。
なかなか食事量が増えないのが現実です。そのために分食は重要です。
無理せず続ける!胃全摘後の食事の5つのコツ
1. 少量をこまめに|1日5〜6回の分食がおすすめ
1回の食事量はお茶碗半分〜1杯程度に抑えて、朝昼晩+間食を2〜3回に分けてみてください。 「3時間おきに軽く食べる」くらいの感覚でOKです。
2. よく噛む=消化のサポートになる
1口あたり30回以上噛むことを意識。 噛むことで唾液と混ざり、消化酵素が働きやすくなります。 柔らかめの食事でも「噛む意識」をもつだけで消化が楽になります。
3. 油は控えめ&“良い油”を少しだけ
揚げ物・バター・ラードは控えめに。 ごま油・オリーブオイル・青魚の脂(DHA/EPA)など、良質な脂を“ちょこっと”取り入れましょう。
4. 血糖値の急上昇を防ぐ食べ方・選び方を意識
白米よりも雑穀米や玄米を少しずつ。 甘いものは間食の時間に“少量だけ”。 低GI食品を意識して、血糖値の急上昇を防ぎましょう。
5. ビタミン・ミネラルは“意識して”補う
ビタミンB12、鉄、ビタミンD、亜鉛などは特に吸収されにくくなります。 血液検査で不足があれば、医師の指示で注射やサプリも活用を。

“胃がないから…”とあきらめなくても大丈夫。 体にやさしい食べ方を身につけていけば、また“食べることが楽しい”と思える時間が戻ってきますよ。
分食でも栄養ばっちり!おすすめ補助食品7選
「少しずつ、何回かに分けて食べるのが大事」と言われても、毎回食事を準備するのは大変ですよね。 そんなときに役立つのが、胃にも肝臓にもやさしい栄養補助食品や軽食たちです。 ここでは、看護の現場でもおすすめしてきた「無理なく続けられる7つのアイテム」をご紹介します。
1. 明治 メイバランスMiniカップ
少量(125ml)で200kcal+たんぱく質・ビタミン・ミネラルが補える栄養補助飲料。
- 飲みきりサイズで分食にぴったり
- 冷やすと飲みやすく、味も豊富
- 肝機能が心配な方は低脂肪タイプ(メイバランスjArg Miniなど)がおすすめ
2. サラダチキン(プレーン・梅しそなど)
高たんぱく・低脂肪で、胃と肝臓の両方にやさしい優秀食材。
- 小さく裂いておかゆや雑炊に加えると満足感UP
- 添加物や塩分控えめのタイプを選ぶと安心
3. カロリーメイト(ブロックタイプ)
1本100kcal前後でエネルギー&ビタミン補給が可能。
- 外出時や小腹がすいたときのお守りに
- 脂質がやや多めなので1回1本までが目安
4. 雑炊・冷製スープ(レトルト)
温めるだけ、もしくは冷たいままでもOKなやさしい主食系食品。
- 和風だし・味噌味などの軽めの味がおすすめ
- 脂っこい具材のスープは避けましょう
5. SOYJOY(ソイジョイ)
大豆たんぱくベースで低GI。ダンピング予防にも◎
- フルーツ系やナッツ系の味が選べる
- 脂質が多い「ピーナッツ味」は量に注意
6. オイコス(高たんぱくヨーグルト)
デザート感覚で食べられ、たんぱく質が10g以上とれる優秀アイテム。
- 低脂肪タイプを選べば肝臓にもやさしい
- 間食や朝食の一部に加えて栄養アップ
7. inゼリー(たんぱく・エネルギータイプ)
「今日は何も作れない…」そんな日の心強い味方。
- ストロー付きで飲みやすく、短時間で栄養補給
- 糖質が多いタイプは避け、目的に合ったシリーズを選びましょう

たくさん食べられないからこそ、“1回1回の食事で無理なく補う”ことが大切です。 市販の補助食品も、使い方次第で立派な栄養源になりますよ。
肝機能が心配な方は、脂質や糖質の“量と種類”にちょっと気をつけるだけで、補助食品も安心して使えます。 迷ったときは、“低脂肪・低糖質・高たんぱく”がポイントですよ。
さいごに|「食べること」を、もう一度あなたの味方に
胃を失ってから、あなたはきっと、たくさんのことを我慢してきたと思います。 「またダンピングになったらどうしよう…」「何を食べてもおいしく感じない…」 そんな不安やつらさを、私も患者さんから何度も聞いてきました。
でも、食べることは“人生を味わうこと”でもあります。 一度にたくさん食べられなくても、少しずつ、自分のペースで、また「美味しい」と感じられる瞬間が必ず戻ってきます。
私は、看護師として、そしてがんを経験したひとりとして、 「制限された生活の中でも、“できること”に目を向ける力」を信じています。

この記事が、あなたが食事と向き合ううえでの小さなヒントや励ましになれば嬉しいです。 そしてこれからも、あなたの暮らしと体に寄り添う情報を発信していきますので、またぜひ読みにきてくださいね。
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